目次
研究計画書(一部)
研究成果報告書のタイトル(案)
社会課題解決手段としての側面に焦点を当てた宇宙開発広報の可能性に関する考察
概要
昨今、社会課題の解決に向けた取り組みが、国内外・業種業界を問わず進められている。その短期的なゴールとしてSDGsを活用し、積極的に進捗を広報することでESG投資を呼び込む動きも活発である。しかし、同様の動きは現状、宇宙開発において多く見受けられない。
しかし、宇宙開発にはSDGsの達成、そしてサステナブルな社会の構築に貢献できる活動が多く含まれる。リモートセンシングによる森林火災の監視は、その一例である。社会課題解決手段としての側面に焦点を当てて広報することにより、宇宙開発に対する理解や支持を一層獲得することで、これを積極的に進め、社会課題の解決を加速させられる可能性がある。
そこで本研究では、まず宇宙開発と社会課題の相関を整理する。次いで、宇宙開発に関わる組織が社会課題にどう取り組み、またそれをどのように広報しているか、現状を調査する。そのうえで宇宙開発広報の「あるべき姿」を考察し、現状とのギャップから宇宙開発関連組織が採るべき広報戦略を提言として取りまとめる。
研究成果報告書で解決したい具体的な課題/明らかにしたい具体的な問い
- 宇宙開発と社会課題(特にSDGsの各ゴール)の相関
- 宇宙開発に関わる組織が社会課題にどう取り組み、またそれをどのように広報しているか、その現状
- 宇宙開発広報の「あるべき姿」
- (現状と「あるべき姿」のギャップから導かれる)宇宙開発関連組織が採るべき広報戦略
1. テーマの設定に至るまでの実務経験や、これまでに考えてきたこと
筆者は幼少の頃から宇宙に憧れてきた。また、かつての宇宙開発事業団(現在の宇宙航空研究開発機構)において、広報業務に従事した経験がある。
宇宙開発を推進することの是非を巡る議論は、総論賛成・各論反対の状況に比較的陥りやすい。その背景には、宇宙へ進出するよりまず地上の問題を解決すべきとの「宇宙対地上」という二項対立的な捉え方や、どれだけ先の未来までを見据えるかという論点で、時間軸の揃えにくさがあると考える。
本学に入学しサステナビリティについて学んだ筆者は、上述の状況を脱し、総論においても各論においても宇宙開発の推進に対し社会の賛同を得る方策として、社会課題の解決をその中心的動機に据え、またその手段としての宇宙開発を積極的に広報すべきではないか、と考えるようになった。
従来、地上の自然環境のみを対象として扱うことの多かったサステナビリティは、宇宙空間におけるゴミ(スペースデブリ)問題に代表されるように、その対象を拡張しつつある。複数の宇宙飛行士が国際宇宙ステーションに定住する現在、宇宙は既に人類の活動領域の一部であり、サステナビリティを扱う文脈において宇宙と地上とを分けて論ずることは、もはや現実的ではない。
また時間軸については遠い将来、数十億年後の予測ではあるが、太陽の膨張により地球環境に居住し続けることが不可能となるのは科学的に明らかで、人類の存続というサステナビリティを考えれば、遅かれ早かれ宇宙への移住は不可避である。たとえそれが現在の科学技術では実現不可能であっても、その可能性を将来にわたり継続的に模索し続けない限り、サステナブルな社会を維持できない。
つまり、宇宙開発に対する「総論賛成・各論反対」なジレンマを解消するキー・コンセプトとして、社会課題の解決やサステナビリティは有効と筆者は考える。少なくとも宇宙開発を進める過程で、地球全体を俯瞰するような視座を一人でも多くが獲得できれば、それは社会課題の解決にとって有意義ではないだろうか。
なお近年、中国は独自に火星探査や宇宙ステーション建設を推進。宇宙開発において従来の国際協調路線からの揺り戻し、国威発揚の高まりが見受けられる。宇宙開発の目的や動機のうち、人類のサステナビリティという側面を広報し理解を深めることで、その種の競争に由来する緊張を、ある程度は緩和することも可能と考える。
2.これからの研究計画
(1)研究の背景
冷戦構造を背景に、宇宙開発は国威発揚を第一義として、国家主導で進められた。冷戦の終結、また巨額のコストへの忌避から、宇宙開発の主体はその後、官から民へシフト。さらにはベンチャー企業や異業種からの参入によって、NewSpaceと呼ばれるムーヴメントを迎えた。
いっぽう企業に対しては、近年CSRが求められるようになり、その具体的かつ短期的なゴールとしてSDGsを活用した取り組みや、またその種の活動に依拠したESG投資が活発化している。さらには株主資本主義からステークホルダー資本主義への転換が、社会的に求められつつある。
宇宙開発は、その応用範囲の広さゆえSDGsにある各種のゴール、ひいては数々の社会課題に対し、多面的に貢献できる可能性がある。にもかかわらず、宇宙開発を推進する組織が、両者の相関を分かりやすく紐解き広報やIRに役立てている事例は、まだ多くないように思われる。
社会課題への取り組みが注目されるようになった今だからこそ、宇宙開発を推進する主たる動機にサステナビリティを掲げ、またそれを積極的に広報することで一層の理解や支持を獲得し、社会課題の解決を加速させることができるのではないだろうか。
本研究を通じ、宇宙開発関連組織が採るべき広報戦略を明らかにしたい。
(2)解決したい課題/明らかにしたい問いと研究方法
①研究成果報告書のなかで解決したい課題/明らかにしたい問い
- 宇宙開発と社会課題(特にSDGsの各ゴール)の相関
- 宇宙開発は、どの社会課題に、どのように貢献しているか、または貢献し得るか
- SDGsの各ゴールに対し、現在および将来の宇宙開発は、どう関係しているか
- 宇宙開発に関わる組織が社会課題にどう取り組み、またそれをどのように広報しているか、その現状
- 宇宙開発を推進している組織、とりわけ日本国内の民間企業には、どのような企業が存在しているか
- それぞれの組織が、社会課題やサステナビリティ、SDGsをどう捉え、また具体的にどのように取り組んでいるか
- それぞれの組織が、社会課題やサステナビリティ、SDGsに関する取り組みを、どのように広報やIR活動において表現しているか
- 宇宙開発広報の「あるべき姿」
- これまでの宇宙開発広報
- 公的機関と民間企業での相違
- 日本国内と海外での相違
- 前項ならびに現在の社会環境を踏まえた今後の宇宙開発広報の「あるべき姿」
- (現状と「あるべき姿」のギャップから導かれる)宇宙開発関連組織が採るべき広報戦略
②どのような計画で、何を、どこまで明らかにしようとするのか
- 前項の「明らかにしたい問い」に対し、現時点で知り得た情報を元に、仮説を構築する
- 宇宙開発を推進する組織が、宇宙開発と社会課題の相関を分かりやすく紐解き広報やIRに役立てている事例は、まだ多くないのではないか?
- 国威発揚を目的として進められていた過去の影響か?
- 以下の各領域について学習し、また情報収集を行い、理解を深める
- 社会課題/サステナビリティ/SDGs/CSR/ESG
- 世界および日本国内における宇宙開発の歴史
- 国内外の宇宙開発関連組織(公的組織・民間企業)の動向
- 2.の成果を踏まえて、1.の仮説を検証し分析する
- 研究成果報告書として体系化と文書化を行う
③そのために、どのような研究方法を用いる予定か
- 基本的には量的研究ではなく質的研究を行う
- 宇宙開発に関わる組織が本業を社会課題とどう関連づけ、またどのように広報しているかは、各組織にアプローチし、広報/IR担当者を対象にアンケートないしインタビューを行う
- 各組織の公式Webサイトを対象とした比較も行う
- 社会課題解決の視点から、特に興味深い日本国内の組織については、ケーススタディとして詳細な調査を行う
- ケーススタディ候補1:株式会社アストロスケール
- 「宇宙の持続可能性」に着目、本業でスペースデブリの除去に必要な技術を開発
- ケーススタディ候補2:株式会社SPACE WALKER
- 2021年3月に「サステナブル宇宙開発宣言」を発表