ガンダムの生みの親、という説明が一番通じると思うので記事タイトルからそのまま流用させていただきますが、その富野由悠季氏が毎日新聞のインタビューに応えていました(「宇宙開発は愚か」 ガンダム生みの親、富野由悠季さん)。
記事タイトルは非常に挑発的であり、氏のお人柄をご存じない方にとっては、やや刺激的すぎるかもしれません。しかし、そこで語られている内容は、有人・無人のいずれであっても宇宙開発を支持する立場の私が読んでも、至極真っ当な問題提起に読めます。
環境論にたどりついたのは、アニメで宇宙進出を描き、考えてきたからこそだろう。「宇宙で生活するには全部を人工物でつくらなければならない。人の暮らしにいちばん大事なのは食糧、水、空気。宇宙では絶対に生活できないと結論は出ている」
「宇宙開発は愚か」 ガンダム生みの親、富野由悠季さん
地上と宇宙空間の別を問わず、完全な閉鎖環境において人間が長期に渡り生存(ましてや世代交代)できた試しはなく、国際宇宙ステーションにしたって定期的に地上から補給を行ったり、あるいは廃棄物を船外に廃棄しなければなりません。そういう意味では確かに、科学技術が今より発展するであろう将来はともかく現時点においては、地球からの支援無しに人類が宇宙空間や他の天体で永続的に生活することは不可能と断言できるでしょう。
米国のアポロ11号計画で、人類史上初めてニール・アームストロング船長が月面着陸したのは1969年。53年も前のことだ。生活できるか否かという点では、何も進んでいない。「それなのに科学者や政治家や研究者が宇宙開発を言うのは愚かだ。50年代の『宇宙進出で未来が開ける』という頭しかないらしいが、それは空想。月までの38万キロの距離がどれだけとんでもないものか。『地球が温暖化したら、火星あたりに移民を』と話す人がいるけれど、火星は月よりももっと遠いの。そういうことを想像しないで宇宙開発と言っている」と疑問を呈する。
「宇宙開発は愚か」 ガンダム生みの親、富野由悠季さん
火星への移住を目論むElon Musk氏が、火星の遠さを想像すらせず構想の実現に向け奔走しているとは思いませんが、いっぽう構想の実現可能性についてはいまだ(その壮大さの割に)十分な説明がなされていないとも感じます。まぁ、火星移住はさすがに一足飛び過ぎるので傍に置いておくとしても宇宙開発、とりわけ有人宇宙開発が喫緊の社会課題解決にどれだけ貢献し得るのか、その可能性があまり社会と共有できていないように思えます。
富野氏は、わかりやすく問題提起をすべく敢えて宇宙開発イコール(現行の有人宇宙開発が進展したその先にある)宇宙移住としてお話しされているのでしょう。しかし宇宙開発にはさまざまな種類があり、気象予報やGPSなど、私たちにとって既に必要不可欠なサービスも含まれるわけで、すべてを一緒くたに愚かと呼んで切り捨てるのは無理筋に思えます。もっとも氏からすれば気象予報やGPSすら、地球ならびに人類の持続可能性と天秤にかけるなら、手放すことの容易い利便かもしれません。
何はともあれ、困難な社会課題の山積した今を生きる私たちが宇宙開発を盲目的、半ば盲信的に肯定していまいか?、極めて有意義な問題提起であると、私は思いました。